このシリーズのパート1をまだお読みでなければ、以下よりご覧いただけます。 Part 1: カイロとイスタンブールでJETROと共にスタートアップについて学ぶ

イスタンブールへ

3日間の集中的なミーティングとMENA(中東・北アフリカ)地域のスタートアップとテクノロジー業界の動向についての学習後、 私たちはイスタンブールに向かいました。 カイロからの日本代表団が皆旅程の第二部へ参加したわけではありませんが、 イスタンブール当地に基盤をおく多くの日本人代表と会うことができました。

The Istanbul Skyline

ジェトロ・イスタンブールでのブリーフィング

イスタンブール到着後、すぐにジェトロのイスタンブール支局でのブリーフィングに向かいました。

startups.watchの Serkan Ünsal(セルカン・ウンザル)

セルカンは startups.watch の編集者かつ共同創業者で、 トルコのテクノロジー業界と資金調達エコシステムの専門家です。

セルカンが、トルコのスタートアップの最新動向について説明してくれました。 2011年から2015年の間、スタートアップのほとんどは電子商取引と販売セクターに取り組んでいましたが、 最近五年間ではより多くの企業がフィンテックやゲーム化、AI業界に取り組んでいます。

B2BがB2Cより目立ち、その主な理由はトルコ地元経済の問題です。 トルコは大きな若年人口を抱えていますが、そのうち25%は失業しており、 つまり人々に購買意欲がなく、B2Cソリューションを現金化するのが難しいのです。

常に流動的な政界動向も、一般的にトルコでのビジネスで障害になります。特に、トルコで設立されたファンドを獲得するという意味で難しいのです。

セルカンはまた、異なる都市で異なるセクターが集積しているようだとも述べていました。 例えば、アンカラではテクノロジー業界中核で働くエンジニアや関係者が極端に多く、 イスタンブールでは電子商取引やソーシャルゲームで働く人が多いといった様子です。

212のヌマン

212 の経営ディレクターであるヌマンは、 東京とニューヨークおいてスタートアップに特化した銀行業界で働いた経験があり、 スタートアップとテクノロジー業界のエコシステムを築くためイスタンブールに戻ってきました。

ヌマンとの議論は興味深いものでした。 彼はトルコ政界の安定性に批判的で、トルコ市場に寄与するスタートアップや、 IPOを通じたトルコの既存企業や、M&Aにさえもほとんど希望や興味がないと端的に言及しました。

ヌマンによると、トルコで成功したスタートアップはトルコ国外市場をターゲットとしており、 現在、彼が資金を提供しているスタートアップは米国やアジア市場をターゲットにしているとのことです。 現実的な戦略で、多くの潜在的M&Aの買い手や、米国やロンドンでのIPOさえも引き付けることができます。

逆に言えば、トルコでの不安定性は、現地の人々を変化に適応的にさせ、迅速に行動させます。これは、起業家にとって好ましい特徴です。

ネットワーキングディナー

ジェトロ支局での熱いブリーフィングと議論の後、歩いて10分ほどの近くの現地レストランに移動して、ネットワーキングディナーに参加しました。

Networking dinner with 212

ディナーでは、ヌマンの212ファンドから資金を受けた企業と話すことができました。 その一つが MallIQで、基本的に、 GPSが利用不可などの制限で従来は難しかった室内でも、消費者をより精密にターゲットにできるようにする 「位置情報インテリジェンス・プラットフォーム」でした。

もう一つ話をした企業が Ommasignで、 この会社は世界中の看板を変革するというビジョンを持っています。 好きなようにデジタル看板をカスタマイズでき、インタラクティブにすることさえもできます。

ヌマンの212のもと、MallIQとOmmasignは異なるテクノロジーで互いに補完しあっています。 ターゲットのマーケティングキャンペーンのため、企業が顧客データを集めるサポートまでする現地マーケティングイニシアティブで、 両者がタイアップしている様子はとても興味深いものでしょう。

インキュベーションとテクノロジーパーク

イスタンブール二日目、私たちは共同作業スペースとテクノロジーパークを訪問し、 テクノロジースタートアップがどんな場所でどのように働いているのか直接確かめました。

Kolektif ハウス

最初に訪問したのは、共同作業スペースでインキュベーターでもある Kolektif House in Leventです。

とてもシックな共同作業スペースで、現在イスタンブール周辺に4件あります。

Kolektif House Levent, Istanbul

Kolektifハウスは自らを、利益を出せるWeWorkと表現します。 現在約3000の会員がおり、その大部分は中小企業とフリーランス業者で、 テナントとして11のVCを抱えます。利用率は、全ての場所で95%に上ります。

同社スペースの価格は、(住所のみの)バーチャルオフィスが400トルコリラ(約70ドル)で、 個別スペースのないノマドワーカー向けが1000トルコリラ(約170ドル)、 専用デスクが1300トルコリラ(約220ドル)、2人が利用できる新興企業ルームが2500トルコリラ(約420ドル)です。

İş Bank Maxisが支援するインキュベータープログラムもあります。 Kolektifハウス自体は投資をしていませんが、オフィススペースを提供しスタートアップチームの便宜を図っています。

Kolektif House Levent, Istanbul

典型的な投資額は、シード段階からPre-A段階で15万から100万ドルです。

私たちは、Kolektifハウスで働いているスタートアップ数社から売り込みを受けました。 その一つが bandwitt で、コンサルティング業界の破壊的革新を目指しています。 グラブやウーバーと似たモデルですが、コンサルタント向けというわけです。

もう一つの提案は、 vidyouから受けました。 vidyouは、同社APIを通じて迅速かつ簡単に動画が作成できるようにします。 同社の仮説は、より多くの人が他のタイプのメディアより動画を視聴するようになるというもので、 鍵は私たちができるだけ簡単に、より多くの動画を作成できるようにすることにあるというものでした。

Yildiz テクノロジーパーク

Kolektifハウスの次に、私たちはイスタンブールにあるテクノロジーパークの一つを訪問しました。 テクノロジーパークは、トルコのテクノロジー産業の主要な要素の一つで、新しい技術を持つ多くの企業が製品開発のために集まっています。

Yildiz Technology Park Istanbul

イルディズ・テクノロジーパークは100%満室で、入居待ちのリストがあります。 トルコでは、テクノロジーパークに受け入れられるメリットが多くあります。 法人税免除、付加価値税免除、研究開発を行う職員の給料税免除など、様々です。 大部分の企業は、ハードウェアを主とする製品の企業です。

訪問中に聞いた提案で印象深かったのは、太陽光発電できるカーテンを製造するスタートアップの solarcurtain 屋根の上に平面で硬い太陽光パネルを設置する代わりに、太陽光を補足するため窓にカーテンとして掲げればよいのです。 同社カーテンは22%の効率を誇り、価格は平方メートルあたり250ドルです。 こちらから動画をご覧ください。

イスタンブール工科大学

この日の最後に訪問したのがイスタンブール工科大学で、キャンパス自体がテクノロジーパークの中にありました。

私たちはキャンパスをめぐり、ハードウェア製品を製作する研究室を訪問しました。 そこでは、買ったばかりの汎用ドローンを改良しているチームと出会いました

ITU College Istanbul

キャンパス内には、、同大学の incubation program内のスタートアップをホストし、 外国のアクセレーターと共に作業できる独自の共同作業スペースもありました。

イスタンブール旅行の終わりに

現地で直接トルコのテクノロジー業界で働く人々と話し、 直接何をしているのか目にした後、私はトルコは隠れた宝石だと感じています。

ここのJICA職員のブリーフィングによると、トルコは食料供給が豊富で(食糧輸入は総輸入のたった6%程度)、 近代化に国力を投入し、現代のトルコ共和国設立から始まる国家戦略の一環であるエンジニアリングの長い歴史があります。

この結果、多くの技術学校と工科大学が存在し、多くの若いトルコ人がエンジニアリングを好ましいキャリアと考えています。 このため、エンジニアリング業界内には、力強い文化と力強いエンジニアリング実践が存在しているのです。

同国のテクノロジー業界は国際市場により注力しており、彼らは自動的に外国企業との協働に対して開放的になっています。 また、世界のいろいろな市場のニーズと要求を理解することができるのです。

テクノロジー業界は間違いなく成長もしています。10年前、トルコ内にはアクセレーターは10件もなかったかもしれませんが、 今や50件近くが活動しており、新しいアクセレーターが10件くらいは、たった今も設立されているのです。

この結果、スタートアップをすべて受け入れるための共同作業スペースの増加にもつながっています。 資金調達も堅調です。 2019年、トルコのスタートアップ向けに5000万ドルの資金が提供される見込みです。 ピークは2017年で、1億1190万ドルの資金が調達されました。

海外エンジニアリング資源を探す日本のテクノロジー業界企業は、 たいていベトナムやミャンマー(以前はインドだった)に目を向け、 エンジニアリングニーズを満たすため最近はウクライナにも注目していますが、私は協働するならトルコも魅力的な場所だと思います。

ジェトロプログラムのまとめ

日本で企業を経営しており、業界や地域に不慣れで、そこで幸先の良いスタートを切りコネクションを作り始めたい、 もしくはただもっと学びたいとお考えなら、これらのジェトロが提供する代表団プログラムは最適な方法です。

私は日本国外に拠点を置く日本人代表と会い、さらに学ぶ機会も得ました。彼らはいろいろな視点を提供してくれましたが、 グローバルな視点から日本国内でビジネスをするという意味でも貴重なものでした。

ジェトロの使命は、日本企業を外国の企業とつなぐ助けとなることなので、文書に使われる基本言語は日本語です。 そのため、ビジネスレベルの日本語能力は間違いなく役に立つでしょう。

Xoxzoにとっては、今回の旅から得られたつながりや情報を活用し、合わせることで我が社の社員と製品を向上改善できればと思います。

イクバル・アバドゥラ

イクバル・アバドゥラ

取締役

1997年に来日。佐賀大学の理工学部を卒業しヤフー株式会社、アマゾン株式会社を経て2007年に株式会社Xoxzoの前身である株式会社MARIMOREを設立。 PyCon JPにもボランティアとして活動しています。合同会社LaLoka Labsの代表。