バリ開催のASEAN・日本 経営者会議(AJBM)
2018年10月24日より26日まで、本年44回目を数える日本・ASEAN経営者会議が バリのヒルトン・リゾートにおいて開催されました。私は、この機会に素晴らしいバリ島を訪れ、会議に参加しました。
バリのデンパサールへ向かうフライトは数多くあり、私はクアラルンプールからエアアジアの接続便を利用しました。
こちらは会議の会場ともなったヒルトン・バリ・リゾートで私が滞在した部屋からの眺めです。
本年の会議のテーマは 「ASEAN地域と日本での成長促進に向けたコネクティビティとデジタル・エコノミー」 です。
会議の概要
AJBMは1974年に経済同友会の主導で始まった「日本とASEANの間の多国間の民間主導フォーラム」です。 年次会議では、ASEANと日本の安定と発展へ向けて、民間セクターの企業間での経済交流を促進しています。
今年は全体会議がいくつか行われ、どの全体会議も興味深い議論のトピックを扱っていましたが、 私が一番聴講したかったのは、デジタル・エコノミーに関するものでした。 日本やASEAN諸国の最近の状況はどうなのか、そして現在直面している問題は何なのでしょうか。
全体会議III、デジタル・エコノミー
当全体会議では、株式会社ブイキューブの間下CEOが司会を務められました。 全体会議で興味深いと感じた点を書き記しておきます。 ASEANの現状と今後についての概観の理解に十分な情報を、つなぎ合わせられるといいのですが。
このセッションには、日本とASEAN諸国から4人のパネリストが参加していました。 * 赤木鉄朗氏:NEC(日本電気株式会社)の執行役員および NEC Asia Pacific Pte. Ltd.のCEO * Mamerto E. Tangonan氏:フィリピン・Chemonics International Inc.の部門長 * Tomas Pokorny氏:カンボジア・Pi Payの共同創業者兼CEO * Hew Wee Choong氏:Malaysia.マレーシア・MDECの投資・産業開発担当副代表
アグリフード・イノベーション
これは、NEC主導のリスクマネジメントとアグリフード生産性イノベーションのためのDX(デジタル・トランスフォメーション)アプローチ と呼ばれるイニシアチブです。 NECは、2050年には97億人にまで達すると推定される人口の爆発的増加を重要な問題と捉え、対処が必要であると考えています。 さらに、インドネシアで現在指揮をとっている森林火災識別システムをはじめ、ASEAN加盟諸国と行っている概念実証(POC)プロジェクトも、幾つか紹介されました。
デジタル・フリー・トレード・ゾーン(デジタル自由貿易地区)(DFTZ)
MDECはDFTZの目的を、「eコマースを通じてマレーシアの中小企業の輸出を促進し、 マレーシアを地域のeコマースの中枢として確立することにある」と説明しています。 これはまた、国境を超えた貿易を含め、最終配達まですべての貿易フルフィルメントをカバーするものです。
MDECは、多くのビジネスや投資の機会があるだろうと述べました。 まず、eコマースを通じて販売可能な、物理的なブランドやデジタル商品を持つ企業、デジタルコンテンツ企業、 eコマースのプラットフォーム企業、ロジスティクス企業、インフラやバックエンドオフィスといった、サポートサービスが存在します。
フィリピンにおけるeペイメント
フィリピン政府は、eペイメントでの支払いを促進しており、全体の支払いに占めるeペイメントの割合を、 現在の1.03%から20%に高めるという目標を掲げています。
ここでは、フィンテック企業が重要な役割を果たします。 研究によれば、デジタルテクノロジーはコストを最大90%削減できるとされており、 金融企業が郊外に進出するための投資を、さらに進めることができます。 最も重要な点としては、デジタルペイメントは、例えばより良いヘルスケアにより簡単にアクセスできるといった、 生活の質の向上につながることがわかっています。
ASEAN内ではタイのProngPayが最も浸透しており、政府がeペイメントの利用を促進する主な立役者として貢献しています。
カンボジアのPi Pay
カンボジアにおけるeペイメントの草分け的存在 Pi Payには興味深いストーリーがあります。 人口のわずか15%のみしか銀行口座を持っておらず、国内に「フィンテック」を持ち込むのに直面する課題がはっきりと浮かび上がります。
しかし同時に、国内の1人当たりのSIMカード保有数は1.7枚で、携帯電話の普及率は高いのです。 そのため、フィンテックセクターにおける解決策は、カンボジアで すでに広く普及した携帯電話の利用を基盤になるはずです。
質疑応答セッション
全体会議のなかで最も興味深かったのは、質疑応答でした。 司会者がパネリストにいくつか質問を投げかけ、興味深いテーマについて議論を促しました。
アメリカと中国の貿易戦争にどのような影響を受けていると考えますか。
- Mamerto E. Tangonan氏:フィリピンは主にアメリカを基盤としてきていたが、中国も大きく進出してきている。例としては支払いシステムが挙げられ、中国を拠点とする企業が独自のQRコードを持ち込んでいる。それぞれの業者ごとに異なるQRコードがあり、お店の中で異なる支払いシステムごとに多くの異なるQRコードがあるのは面倒である。そのため、こういったものに基準を設ける単一の組織が必要である。
- Tomas Pokorny氏:賢い方法で双方の国の影響力を利用して、この状況から利益を得る必要がある。現在は中国やアメリカが我々に影響を与えようとしているかもしれないが、将来的にはASEANがアメリカに影響を与えるようになるかもしれない。
- 赤木鉄朗氏:どちらの国からも操作されないように、データの取り扱いに気をつけなければならない。NECのポリシーはオープンイノベーションを行うことなので、我々の目標はASEANの中小企業をサポートすることにもある。
- Hew Wee Choong氏:赤木氏の発言を受ける形になるが、日本は我々のマルチメディア・スーパーコリドープロジェクトを強力に支援し、大きな投資を行ってくれている。例えば、NTTは現地に投資してオフィスをを立ち上げた最初の多国籍企業の1つである。日本のような国は、こういった貿易戦争がもたらすリスクのバランスをとることができる。貿易戦争の有無にかかわらず、ASEANは中国の人口の半分、6億人を抱えるマーケットであることを否定できない。
サイバーセキュリティ、データセキュリティ、プライバシーについて
- Mamerto E. Tangonan氏:フィリピンでは、顧客情報を保護するためのセキュリティ対策を取ることを義務化する規制を中央銀行が進めた。
- Tomas Pokorny氏:カンボジアでも同じであるが、取り組みは控えめであり、本来あるべきであるほどは、真剣に取り扱われていないように感じる。すべての業界関係組織が真剣な対策を取るように促すのは、規制当局にかかっている。常にアプローチしてくるいわゆる専門家という人たちにも注意しなければならない。ソーシャル・エンジニアリングによって我々の組織に入り込もうとする悪意あるハッカーの可能性があるのだから。
- 赤木鉄朗氏:アクセスを制限し、データを安全に保つための顔認証といったテクノロジーを有しているが、自分たちの中に誠実さを染み込ませることに重きをおかなければ、意味がない。
- Hew Wee Choong氏:マレーシアの首相府には、国内での脅威やサイバーセキュリティの状況を直接監督し、報告を受ける部隊がある。最上級に真剣に取り組んでいる。
インドのアダールシステムについて:あなたの国でも同じようなことが起こりうるか。
- Mamerto E. Tangonan氏:国会が国民のIDを追跡する法律を成立させたところで、全国民に取得が義務付けられている。11のデータポイントを追跡し、個人を識別するだけなので、ハッキングする動機にはつながりにくい。第三者が中央データベースにアクセスするには、まず本人の同意が必要となる。
- Tomas Pokorny氏:公共部門と民間とのパートナーシップのチャンスであるが、政府はシステムが濫用されないよう、監督者としての務めを果たす必要がある。
- 赤木鉄朗氏:我々はアダールシステムにプラットフォームを提供しており、詳細を明かせないために、あまりコメントすることはできない。しかし、我々にとってセキュリテイはずっと最重要事項であり続けている。
- Hew Wee Choong氏:我が国の大臣が数週間前に、オプトイン・デジタルIDシステムであるナショナル・デジタルID構想を発表した。
結論
日本とASEANの間の注目の話題は、コネクティビティ、eコマース、そしてデジタルペイメントでした。 eコマースに関しては、諸要素の中でも、例えば物理的なコネクティビティや関税といった、ハードウェアにまだ困難が残っています。 支払いに関しては、例えばカンボジアのような国における銀行口座の浸透率の低さが、乗り越えなければならない障害としてあります。
これらのセクターにおいては、素晴らしい成長が見られ続けると考えている。日本とASEANがデジタルイニシアチブ、 そしてコネクティビティが次の大きなステップと認識しているため、これら2つの経済ブロックにおいて、サポート的な業界により多くのチャンスが訪れるでしょう。
残念ながら、他のASEAN諸国の代表者から彼らのマーケットについての話を聞くことはできませんでした。
ABJMで特に興味深いのは、参加者が日本につながりのある各国の商工会のメンバーで、招待された人たちであるという点です。 例えば、株式会社Xoxzoはマレーシア日本経済協議会(MAJECA) のメンバーであるために参加していました。 こういった商工会のメンバーはもともと、日本で就労・留学したり、日本とのビジネスをした経験がある人たちです。 日本側からも、経済同友会といった連合からの支援やイニシアチブは、日本の一流の経営者たちの意見やそのつながりをもたらすことで、価値を高めているのです。
年次ABJMは、ASEAN加盟各国の一般的な動向とビジネス上の関心について、 そしてどのように日本と協働することができるかについて見識を与えてくれました。またこのような会議に参加できることを楽しみにしています。